他人の姿に自分を映す

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天国旅行

天国旅行と聞くと、イエモンの曲を思いつく人もいると思いますが、こちらは

三浦しをんの短編小説集「天国旅行」です。しかし、三浦さんはイエモンの曲から小説のタイトルを採ったようなので繋がっています。

 

「天国旅行」は心中をテーマにした短編集です。三浦しをんさんの作品は今作の前に「船を編む」を読んでいたため、温かみのある柔らかいものを読むテンションで挑んだのですが、見事にやけどしました。しかしだからと言って、重くドロドロとしているわけではありません。全ての物語の中で“死”というものを掴もうとしても掴めない雲の様に描いていないからです。

 

私たちは今生きていますよね。だから、人は死んだらどうなるかなどわからない。わからないものだからこそ、そこに夢を描く人がいる。心中を選択しようとする人は、死は生からの解放であり、夢の国の始まりだと考えるのではないでしょうか。また、死んでしまっても、その姿は見える人には見えるのではないだろうか。はたまた生まれ変わりだってあるかもしれない。私たちは生きているからこそ、死に対して様々な憶測を考えることが出来るのです。この小説はこういった死に対する憶測を物語にした作品であり、死に対する好奇心でもあるのではないでしょうか。

 

そして、これだけ死と向き合い、心中することを望む人物が多く登場する作品でありながらも、読者を生きることへと導くのです。それは、死を見つめたからこそ生が愛おしくなるという、生き物の生命活動なのでしょうか。また、死と生というものは両極端の様でありながらも、実はいつでも隣同士なのかもしれないと、このこの小説から改めて感じました。いつ自分が死の淵に立ってもおかしくない、それなら天国旅行の切符が渡されるまで生きてみてもいいかなと、そんな気持ちになりました。